【今日のエモい情景】
五百円、落ちてた。
新宿の雑踏の中に落ちていたそれを、見つけられた僕は目敏いと言うべきなのだろうけど、とにかく落ちてた。
僕は拾わなかった。
理由はたくさんある。しゃがみ込めないほどの人ごみだったから。
それに何より僕は落ちているお金を自分のものにしてしまう行為が卑しいと思っていたからだ。
向かいから綺麗な女の人が歩いてきた。
紺色のカーディガンを羽織った純真そうな彼女は、僕の方を見て微笑んだ気がした。
見とれていた僕の目の前で彼女はふっと姿を消し、五百円を拾い上げて青春の一ページみたいに笑った。
彼女が行ってしまうまでの二秒間が、網膜を焼いて仕方なくなってしまった。
ケーキを買った。七百円くらい散財して、僕の自尊心を切り分けた。食べきれなくて捨てるところまでがその一日だった。
※この物語はフィクションです
コメントをお書きください