10月4日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

とある昔の人は「月がきれいですね」と言った。

一方僕は一人寂しく駅へ向かっていたのだ。

月がきれいであることすら共有できる相手を持たずに腹を空かせて駅へ向かっていたのだった。

殺人的なかつおだしの香りに思わず僕は立ち止まる。

暖簾をくぐってメニューを見て、きつねそばを一杯頼んだ。

太めのそばを腹いっぱいになるまで入れて、油揚げを頬張り、一度は香りで僕を殺しかけたつゆを飲み干す。

満足して暖簾を出たところで黄色くて丸いものを見て、なんで月見そばにしなかったのだろうと少し思った。

月見そばを頼むイケメンだったら月がきれいですねなんて言えたんだろうか。

中秋の名月の日に息を吸うように月見そばを注文できれば、自分もあいつみたいになれたんだろうか。

電話が来た。とっさに月見そばが美味かったと嘘をついた。相手は田舎に住む母親だった。

※この物語はフィクションです