9月3日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

はじめましての珈琲屋で、はじめましての珈琲を飲んだ。

好きな小説のヒロインの名前と、たまたま同じ名前の珈琲。

彼女の引っ込み思案を抽出したような、仄かな甘みと少し強い苦み。

「あいつにそっくりでしょう? 見つけたときびっくりしました」主人公の話す声が聞こえる気がした。

まったく、君たちはひどい。日常生活の中まで侵蝕してきやがる。

きっと二人の世界は、本の中では収まりきらなかったのだろう。

その小説の主人公らしくペラペラとしゃべる彼に返事をせず、僕は珈琲をすする。

僕は彼に嫉妬していた。彼女が目の前にいたら多分、僕だって恋をしていた。

僕だって、彼女のことが好きだった。

その豆を買って帰る僕は恥ずかしいくらい未練がましくて、彼のようにはなれないと心から思うのだ。

※この物語はフィクションです