8月25日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

「愚かだ」彼女は言った。唇は先ほど含んだ水で濡れていて、それを器用に動かして話す様子は虫を思わせる。

虫は思い出したかのように僕を見て、愛想笑いとともに言う。「君に向かって言っているわけじゃない」

「分かってますよ。そんなの」僕は彼女の纏う安っぽい赤色とそこから大々的に吐き出された素足を見る。

警戒色だ。彼女は街行く人にアピールしている。自分が『食べられたくない』ことをアピールしている。

あくまで仕事であることをアピールしている。

僕は、分かっていた。愚かなのは僕だ。彼女自身の選択を、見ていられなかった部外者なだけ。

警戒色の裏の彼女を信じているとか、そんな手垢まみれの感情で彼女の選択を嘲った愚か者。

「行こう。こんなところにいても仕方が無い」彼女は僕の手を取る。僕は従う。

彼女は何を思うのだろう。仕事の邪魔をした僕を、彼女は否定しない。ただ複眼のような定まらない目で見るだけだ。

お金を払おうと僕は思った。自分の価値観から逃れられないのなら、その上で散々馬鹿にしてやろうと思った。

※この物語はフィクションです