8月20日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

「先輩、空振ってますね」

バッティングセンターに逃げ込んだ俺を、なぜかあいつは見つけてそう言った。

「うっせ。じゃあお前やってっ、っみろよ」バットは悲しく空を切る。

「嫌ですよ。打てるわけないじゃないですか、こんな球」俺の三振を見ながら言う。「速すぎます」

「人のこと言えないじゃんか」俺は追加のコインを投入して、もう一度構える。

「言えますよ」あいつは得意げだ。「先輩に対してなら言えます」

「なんでだ、よっ」かすりもしない。それでもバットを構えるのは、何のためか。

「だって、打とうとしてるじゃないですか、ホームラン」

カーンという音が鳴って、俺のフルスイングにボールが当たったことがようやく分かる。

飛んでいった球よりも、あいつのニヒヒという笑い声よりも、痺れる両手の方が心臓の鼓動に近く感じた。

※この物語はフィクションです