7月31日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

このたい焼き屋を始めて、もう三年目になるらしい。

桜通りの土地は高い。サラリーマン時代の貯金がなければ開店さえままならなかっただろう。

もともとは妻のため、いずれできるかもしれない娘や息子のため、新居や学費のためのお金だった。

今ではちっぽけなたい焼き屋を潰さないためのお金になっている。

遺されたものが何をすれば良いのかなんてわからない。

餡子をこねることが、生地を焼くことが、妻のためになるなんて到底思えないのだが、なぜだろう。

忘れたかったのかもしれない。

永遠を誓った相手にさえ満足に接してやれなかった自分を、消し去りたかったのかもしれない。

頭を刈って、コンタクトをつけて、バンダナを巻いて、したこともない接客業を始めて、何が変わったというのだろう。

「いらっしゃい、今日も暑いな」饒舌になった口は、自分の気持ちを隠すようで、無口な頃と何も変わらない。

※この物語はフィクションです