5月11日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

駅前は、うちわで扇いだような生ぬるい風が吹いている。

私はいつもと違う横断歩道を渡ってみた。

それは、夏の香りをした夜に、袖を引っ張られたようだった。

居酒屋の裏の、たばこの煙と焼き鳥の煙の混ざった排気をかき分けて進む。

排気からは逃れられても肩まで浸かった夏の気配からは逃れられない。

この夜は、早めの夏に浸されてもうずぶずぶなのだ。

どこかからシャンプーのにおいがする。

湯気の気持ちだけを残した少し熱を持った気体がそれを私まで運ぶ。

その温度を振り払って気づいたら、知らない場所まで来ていた。

夏の夜は、しばらくぶりの挨拶代わりに私を迷子にさせたかったのかもしれない。

※この物語はフィクションです