5月5日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

店に向かう途中の私の手には600円が握られていたが、改めてその使い道を考えるほどには迷っていた。

たい焼き屋のおじさんにとって、たい焼きが売れることはうれしいことだろう。

けれど、毎日のように訪れる客は迷惑なのかもしれない。

特にこういうかき入れ時には、私みたいな常連が行っても邪魔なだけのように感じてしまう。

桜通りは公園に向かう人々で大混雑だった。

店先には鯉のぼりが飾ってあって、今日は子供で賑わっている。

遠くからおじさんが客の子供にたい焼きを渡す姿が見えて、なんだかとても幸せそうに見えてしまった。

私がいない時の方が、生き生きしているようにさえ思えてしまって。

おじさんと目が合わないうちに私は踵を返した。

使えない600円が手の中に残ったまま、財布に戻す気にもなれずに私はしばらく握っていた。

※この物語はフィクションです