5月4日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

遺された花が咲いた。

祖母の育てていたジャーマンアイリス。

祖父母の家を取り壊す前にもらってきたものらしい。

祖父も祖母も、もういない。

忘れそうになっていく顔は、仏壇の横の遺影で思い出すだけになってしまった。

僕には二人の笑顔しか分からない。

この花に水をやる祖母は、それを見つめる祖父は、きっといろいろな顔をしていたのに。

けれど、この花は見ていた。

祖父がいなくなっても、祖母が水をやらなくなっても、家に誰もいなくなっても、ずっと見ていた。

遺された花は、もう思い出せない記憶を揺らすように、いつの間にか咲いていた。

※この物語はフィクションです