3月26日 今日のエモい情景

【今日のエモい情景】

吐き出した息が白くて、隣で吐き出された息もやっぱり白くて、二人で笑った。

三月はもうすぐ終わるというのに、冬はまだ続くらしい。

冷たい雨の中、傘を持つ私の手も冷え切ってしまって、けれどきっと君もそうだから、少しだけうれしかった。

「手が冷たいのがうれしい」と、意味のわからない言葉でも、君は曖昧に飲み込んでくれる。

通りかかった屋台で、たい焼きを一つずつ買う。

雨に濡れる少しだけ咲いた桜を眺める。

何でもないこんな日を、君も私も忘れてしまう。

君が帰ってから見かけた雑貨屋で、小さいキーホルダーを買った。

今日の日を誰かが忘れても、このキーホルダーに覚えててもらおう。

冷え切った手では鞄に付けるのが難しくて、それでもがんばって付けようと思う三月の雨の日。

※この物語はフィクションです