桃太郎

昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から桶に入った赤子がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。

おばあさんは驚いてその桶を拾います。

ずいぶん大きな赤子でした。

とても大きな声で泣くのでかわいそうに思ったおばあさんは、すぐにその子を抱いて家まで連れて帰ります。

お腹が空いているのかと思い、庭で育てていたリンゴをすりおろすのですが、その子はリンゴを全く食べません。

それどころかどんな食べ物も口にしようとしないのです。

泣き続ける赤子に困ったおばあさんを見かねたおじいさんが、このあたりでは珍しい桃という果物をあげたところ、立ち所に泣き止んでもぐもぐと食べるので、二人はその子に桃太郎と名付けました。

二人は親の分からない桃太郎を育てることにしたのでした。

 

最初は桃しか食べなかった桃太郎も、次の日にはもう他のものも食べるようになり、好き嫌いをすることもなくむくむくと育っていきました。

流されてきてから十五年も経つ頃には、周りに敵うものがいないほど、大きくて強い男の子になっていました。

 

その噂を聞きつけたお殿様が、桃太郎のところに遣いの者を出しました。

薪を切っていた桃太郎に遣いの者は言います。

「お殿様はお主の腕っ節の強さを高く買っておる。お主に鬼退治を頼みたい。米を取ったり塩を取ったりする悪い鬼を、退治してきて欲しいのだ。褒美は弾む」

 

桃太郎は家に帰るとおじいさんとおばあさんに言いました。

「おじいさん、おばあさん。わたしも大きくなったので悪い鬼を退治しに行って参ります」

おじいさんもおばあさんも、

「どうして、どうして、お前はまだ年も取ってないし子供なのに」

と言って止めましたが、桃太郎は

「いえ、お殿様の命令なのです」

と言うのでした。

おじいさんもおばあさんも、

「それならば仕方ない」

と言って、きびだんごをどっさりこしらえて腰に下げさせ、新しい鉢巻きを持たせて、新しい袴をはかせ、刀を差させ、

「気をつけて行ってこい。お前が帰ってくるのを待っているでなあ」

と、送り出しました。

 

桃太郎が村はずれまで行くと、ボロボロの服を着た少年が倒れていました。

桃太郎がきびだんごを一つ渡すと、少年はむさぼるように食べるのでした。

「少年よ。名をなんと申す」

「私に名なぞはありませぬ。あるとすればこのつり上がった鼻を笑う『犬』というあだ名ばかり」

「お主も悪い奴らを退治すれば、褒美がもらえる。きっと今のような苦しい暮らしをせずに済むはずだ」

「それでは私もお供します」

 

桃太郎が犬と一緒に山の方へ行くと、身体中に痣だらけの大男が泣いていました。

桃太郎がきびだんごを一つ渡すと、大男はむさぼるように食べるのでした。

「男よ。名をなんと申す」

「私に名なぞはありませぬ。あるとすればこの身体中の濃い体毛を笑う『猿』というあだ名ばかり」

「お主も悪い奴らを退治すれば、名誉がもらえる。きっと今のようにいじめられたりせずに済むはずだ」

「それでは私もお供します」

 

桃太郎は犬と猿をつれて山奥へ入っていくと、ひょろひょろと痩せこけた男が今にも倒れそうに歩いていました。

桃太郎がきびだんごを一つ渡すと、痩せ男はむさぼるように食べるのでした。

「男よ。名をなんと申す」

「私に名なぞはありませぬ。あるとすればこの真っ赤な顔のやけど痕を笑う『雉』というあだ名ばかり」

「お主も悪い奴らを退治すれば、冠位がもらえる。きっと今のように馬鹿にされたりせずに済むはずだ」

「それでは私もお供します」

 

桃太郎は犬と猿と雉とともに山を登ります。

 

ひたすら、ひたすらに登っていきます。

 

疲れてヘトヘトになっても、誰一人音を上げませんでした。

 

山を越えた先には、小さな集落と、広い広い果樹園が広がっていました。

 

 

 

「朝廷からの遣いである。米や塩を盗んだ鬼どもはお主らだな」

「ええい、言い訳しても無駄だ。わたしは鬼どもを退治しに来たのだ」

「鬼は山を越えた先に住む身体の大きい輩だと聞いておる。お主ら皆鬼どもだ」

「悪い鬼どもは片っ端から叩き切ってやる」

 

桃太郎は逃げ惑う『鬼』たちを切り捨てていきました。

犬も猿も雉も、皆逃げていきました。

桃太郎の中に眠る記憶。

村で身体が大きいことでいじめられていた記憶。

桃太郎は悪いことをする人が許せませんでした。

村の学校で教わった鬼の話。

悪いことをする鬼が、昔から桃太郎は大嫌いでした。

目の前にいる鬼は、確かに身体が大きく、少し赤らんだ肌の色をしたもの。

頭の中に浮かんだ疑問を払拭するために、桃太郎は目の前の者たちを切り伏せていきます。

 

身体が大きく、少し赤らんだ肌の色。

 

自分と同じ身体の大きさ。

 

自分と同じ肌の色。

 

 

一人残らず切り伏せてしまえば、私は英雄になれるのだ。

誰もいなくなってしまえば、私が鬼だと判る者もいなくなる。

そう、桃太郎はもう気づいているのです。

けれども回り始めた歯車が止まることはありませんでした。

 

 

扉を開けた小屋の中に女性がいました。

桃太郎の手に握られた血の付いた刀を見ると、女性はハッとした顔をしてから、言いました。

「切りなさい」

桃太郎は切りました。

その女性を切りました。

自分によく似たその女性を切りました。

涙があふれて止まらないのでした。

 

 

桃太郎は村にあったたくさんの果物と、米と塩を荷車に積んで、村に帰っていきました。

 

お殿様は桃太郎のためにお城で宴会を開きました。

「お主、何太郎と申したかな。まあ良い。存分に食べなさい」

その村から取ってきた果物が山積みになった皿を見て、桃太郎は問います。

「お殿様、この実は何と言うのですか」

 

「知らんのか。桃と言うんだ」

 

慟哭とともに刀を抜いた桃太郎は、その場で捕らえられ、死罪となりました。


あとがき

 

編集中