テンキヨホウ

「東京は明日も雨が降るでしょう」

東京は今日も雨が降っている。
9月、梅雨はもうとっくに過ぎ去ったと思いたいのだが、あいにくこの雨は4月から降り続いているのだ。
この雨、丁度東京23区を覆うようにかぶさった雲が流れてきた前線や台風やなにやらをせき止めて動かないかららしい。
関東の地図を見てもこぶし大くらいしかない23区にだけ雲がかぶさってそれより北に行かないなんて絶対なにかおかしいに決まってると思うのだが、あいにくそうなってしまっている以上おかしいとか言ってても仕方ないのだ。
お陰で東北地方は毎日カンカン照りで米なんか作ってる場合じゃない。そもそも水を東京からトラックで運んでいるのだ。
連日の雨は、しかしそれほど強く降っているわけではない。毎日毎日しとしとしとしと休む間もなく降っているのだ。
長く長く降るからもうこれはちょっとした災害である。テレビをつけていても雨の話しかしていない。
「東京は明日も雨が降るでしょう。」聞き飽きた台詞だ。今はもう誰も晴れる明日なんて信じていない。

プルルルル
電話だ。固定電話に来るなんて珍しいな。
「もしもし」
「ハーイ! DJ AOのテレフォンクッキングの時間だぜ! 今日のリスナーは何を作っているのかな!?」
電話を切る。
電話線を切るためにペンチを探していると、
プルルルル
「なんだ」
「ハーイ! DJ AOの」
電話を切る。
発掘されたペンチを片手にしゃがみ込むと、
プルルルル
「今、電話線を切るところだからちょっと待て」
「え、えーっ! 待って! 切るの待って! 謝るから!」
「お前は何も謝ることはない。悪いのはお前の声を一秒でも僕に聞かせたこの電話線だ」
「電話線ちゃんは何も悪くないんだ! 悪いのは俺!」
「悪かったな。これがお前との最後の会話だ」
「一万円!」
「ん?」
「電話線の修理費に一万円あげるから! 俺の話を聞いて! な?」
「五万円」
「ん?」
「お前に今まで貸してた四万円と今のを足して五万円。ちゃんと返せ」
「わかった。返すよ……。と、ちょっと待って。わかった。今度の番組のネタにしようと思ってちょっと調べてほしいことがあるんだ」
「僕は調べてほしくない」
「いや、君に調べてほしいんだ」
「僕は調べたくない」
「三十万円」
「ん?」
「調査で良い成果が出たら三十万円あげよう。お前も仕事がなくて困ってるだろ?」
三十万円、正直喉から手が出るほど欲しい。

デカい小説のアイデアも浮かばず、三流週刊誌の編集者とはひと月前に絶交したばかりだ。

今は知り合いの大学教授の調べものを手伝って食いつないでいる。(といってもこの調べものというのは本当にちょっとした、仕事とも言えないような雑用なのだ。こんなものでお金をくれるあいつには感謝してもしきれない。)

とはいえ妖怪話や小さなお祭りなんかを調べるのもそろそろ飽き飽きしていたところだ。

三十万あれば一晩あいつにおごって次の仕事が見つかるくらいまではなんとか生活できる。
「よし、わかった。七島、要件を聞こう」
「物分りのいいやつは嫌いじゃないぜ。調べてほしいのはお前もよくご存知のことについてだ」
「早く言え」
「まあ、そう急かすなって。天気、すなわちこの長雨について調べてほしい」
「無理」
「えー、早いよ早い早すぎるよ!」
長雨、この難題、超常現象を前に今まで何人の専門家が膝をついたことだろう。
海外からも専門家を招き、何億もの研究費を投入し、懸賞金までかけられた。
それでも解けなかった難問が、素人の僕に解けるはずがない。
「無理だ。無理。できない」
「まあ、そう言うなって。解決なんて望んじゃいないんだ」
「は?」
「お前の知り合いにうちの大学の変わり者の教授がいるだろ」
あいつか。
「そいつにちょちょっと長雨を呼ぶような悪魔だかなんかを教えてもらって、」
「あいつは悪魔なんてしらんぞ」
「じゃあなんだ、天使か、まあなんでもいいんだ。ワイドショーの枠を10分くらい埋められて気味悪げにシメられれば、三十万やるよ」
「そんなんでいいのか?」
「そんなに疑うなって。もし調査費用が必要なら言ってくれよ? 経費で落とすから」
「お前、まあまあ良い奴なんだな」
「え? 今まで気が付かなかった? いやー、俺、良い奴だよ?」
「うざい」
「え?」
「そういうところはうざい」
「……。」
「期限は?」
「あ、ああ。期限は、再来週の月曜日ってことで。今日が月曜だからちょうど二週間後だな。じゃあ、よろしく」
ガチャ ツーツーツー

七島青(ななしまあお)、さっき電話をかけてきた馬鹿はラジオDJに憧れてテレビ局に入社した頭のおかしい人間だ。
その仕事内容は多岐に渡り、プロデューサー、ディレクター、コメンテーター、アナウンサーなど、いろいろやっていて評判もいいらしい。
僕は馬鹿だとしか認識していないが。
仕事上は充実しているようなのに、昔からやっているDJごっこはやめないのは、やっぱりラジオDJの夢が捨てられないからか。
どう考えてもあんな馬鹿が僕と同じ大学に入れたとは思えないのだが、わからないものである。
たしかあいつには君鳥(きみどり)とかいう妹がいた気がするが、まだ妹を養ってるのか?
こういう時代だから性癖については文句はつけられないが、好きなら好きで絶海の孤島でもジャングルの奥地でも好きなところに行って二人だけで結婚式を上げればいいと思う。
あんな変態はこの国になんていないほうがいいんだ。

とりあえず、大学に行くために着替える。
食卓の上に積んである服の中からジーパンを取り出して穿く。
が、チャックが上がらない。
「くそ、また太ったか」
二度三度挑戦して諦めて他のズボンを探す。
出てきたのは黒のスラックス。
喪服用に買っておいて多少太っても着られるように少し大きめの物を買っておいたのだ。
しかし、ちょうどいいサイズになっていた。
「デブは死ね!」
思わずタンスに蹴りを入れると足がすごく痛かった。
死ぬのは僕だった。
ワイシャツを探しているのだが見当たらない。
まさかと思って洗濯機のなかを見に行くと、出てくる出てくる。
ワイシャツだけでも5枚出てきた。
洗濯なんてしばらくしてないな。
とりあえず水と洗剤を入れて蓋をしめる。
帰ってくるころには終わっているだろう。
そこでふと思い浮かんだのは、「一回着たワイシャツでも問題ないんじゃないか?」ということだが、水を入れてしまった以上仕方ない。
Tシャツとスラックスで行こう。

大学までは電車で一時間。
視線が痛いが、なるべく気にしないように気にしないように過ごそう。
スマートフォンで長雨についてのネットの記事を読む。
長雨で検索をかけて一番古い今年の四月の記事から読んでいく。
四月十五日「三日間降り続く雨、増水した川で行方不明者も」
どうでもいい。
四月十七日「神田川決壊、二万三千世帯に避難指示、交通にも影響。」
そういえば丸ノ内線はこの頃から動いていなかったんだな。
四月二十日「農産物にも被害 練馬区」
ああ、この頃か、キャベツ高くなりはじめたのは。
四月二十五日「長雨、明日で二週間。今後は?」
専門家がまじめに悩み始めた。
まあ、五ヶ月も降るとは思ってないだろうけど。
四月三十日「山形県寒河江市、三十年ぶりに雨乞いの儀式」
もはやギャグだな。
関東以北の農業関係者が全員頭を抱えながら天井からロープを垂らしているのは容易に想像できる。
しばらく似たような記事ばかりだ。

大学の最寄り駅についたのでスマホは仕舞ってホームに降り立つ。
大学というのは東応大学という、知らない人はいないと思うが、まあこの国で一番頭のいい大学だ。
ここで若くして教授をやっている黒土(くろつち)と、一応物書きをやっている僕こと大平信彦(おおだいらのぶひこ)と、馬鹿の七島青はこの大学の同期生で、あいつらは僕のことをそれぞれ親友だと思っているらしいが、僕はそんなこと一度も思ったことない。迷惑なやつらだ。
その迷惑で飯を食わせてもらっていることには目をつぶっておこう。

駅からキャンパスまでは遠く、ここに来るまでに二十数人とすれ違った。
僕を見て唖然とする者はあれど、笑ったり、指を差したり、写真を撮ったりするやつはいないからまだ許容範囲か。
大学に入ろうとすると、守衛に止められた。
「君、何しに来たの?」
「あ、えーっと、調査、バイト? ……取材?」
「ちょっとこっちに来なさい」
まずい、と思った。なんとかして信用を得ないと。
「黒土教授に用があって」
「黒土? またか。まあいいや、前例があるからな。じゃあついてきなさい」
「え? どこへ?」
「黒土教授のところまで案内しよう」
ここで逆らわないほうがいいと思った僕はしずしずとついていった。

3号館3階の一番奥、何もなさそうな通路の隅っこを曲がったところに、隠されているかのように黒土の研究室はある。
今日はなんだかポロロンポロロンと寂しげで不可思議なアコースティックギターの音色が響いている。
守衛がドアを開けると資料に埋もれて白装束に歌舞伎メイクの女がギターを弾いていた。こんなのがいつの間にか後ろに立っていたら、心当たりがなくとも何かしらが化けて出たと思うだろう。
そいつは僕を見て
「ぷ、ぎゃはははは、容疑者が任意同行されてる!」
白装束の女の名前は七島村咲(ななしまむらさき)。なんのつながりか知らないが黒土のところで僕と同じように雑用をしている。
ミュージシャンだが金がないらしい。
「だが」じゃなく多分「だから」なのだ。
ミュージシャンならお金がないのは当然だ。
「指差して笑うなよ、七島。」
「着替え中に捕まっちゃったんですか! あ、写メ撮ろ、写メ」
ここで守衛が
「君もさっき同じように連れてこられて教授に笑われてただろう」
だから「前例がある」なんて言ってたのか。
「確かに幽霊が任意同行されてたら僕だって笑うだろうな」
「黒土教授は今お留守なのか?」
「あ、はい。なんでも遠くから元教授っていう人がお見えになるとかで、そのお迎えに」
「じゃあ仕方あるまい。教授が戻るまでこの部屋で待とう」
七島はさっきも廊下に流れていたポロロンポロロンという曲をギターで弾き始める。
弾きながら
「何か黒土教授に用事でもあるんですか?」
「いや、不審者を勝手に研究室に入れたらいけないから教授に知り合いかどうか確認しないといけないだろう」
「それぐらいならやめといたほうがいいと思いますよ」
「ん? なぜだ?」
「そりゃあ、黒土教授は」
七島は守衛の目を見て
「あなたのことが嫌いだから、ですよ」
守衛は一瞬ビクッとして、
「そうか、それは、すまなかった。それじゃあ失礼する」
と言ってさっさと出ていってしまった。
「どうですか、ノブさん!」
「ノブさんはやめろ。あとなにが『どう』なんだ?」
「今弾いていた曲、特殊な音楽なんです。黒土教授から調べてくれと言われている、『言う事を信じてしまう音楽』なんですよ!」
「は?」
「この音楽を聞きながらだから守衛さんも、黒土先生が守衛さんのことが嫌い、なんていう大嘘を信じちゃったんです! 本当は黒土先生はあの守衛さんのことすごい頼りにしてるんですよ! なんでも黒土先生が教授になりたての頃、研究室に怒鳴り込んできた狂信者をとっちめたらしくて!」
「なあ、お前ひどいことをしたという自覚はないのか?」
「え? なんのことですか?」
自覚はないらしい。
「大体、嫌いだなんて言ったら誰だって帰るだろ」
「それもそうですね」
「……守衛に謝って菓子折りでも渡してこい」
「大丈夫ですよ。二人の絆は永遠です」
キャーと言って頬に手を当てる七島。
「お前、自覚あるよな」
「なんのことです?」
あくまでとぼけるつもりか。
そういえば、
「ところで七島って珍しい苗字だが兄弟はいるのか?」
「えーっと、兄と妹がいますが、もしかして、あのバカ兄貴とお知り合いですか?」
あいつの認識は親類の中でも馬鹿で合っていたらしい。
「あいつとはこの大学の同期でな」
「へー、ノブさん頭良かったんですね!」
「馬鹿にしてるのか!」
いけないいけない。グーで殴るところだった。
「なあ、お前の妹、君鳥って言ったっけか、あいつはまだ妹を養ってるのか?」
「ああ、そうらしいですよ? かわいいですからね、君鳥ちゃん」
「お前の存在はあいつから一言も聞いたことなかったんだが」
「ああ、可愛くないですからね、私」
その見た目だとフォローの入れようがない!
「まあ、別にいいんじゃないですか? 私は君鳥ちゃんと違って大義がありますからね! 世界征服という大義が!」
こいつは自分の音楽で世界征服ができると信じている。
兄と同様に馬鹿なのだ。
そんな話をしていると後ろの扉が開く。
「おーい、七島くん? なんか今守衛さんがとても自虐的な笑みを浮かべて『あはは、黒土先生、ごめんなさい。』って言って通り過ぎて行ったんだが、何かしたのか?」
「えー、なんのことでしょう?」
すごい目が泳いでる。
「あ、大平くんじゃないか。君、先週の金曜日までに連絡入れるって言ったよな? 今日まで一体何してたんだ?」
「いや、ちょっと気分が優れなくて」
本当に気分が『優れない』だけなのだが。
「それならそうと連絡入れてくれないか? 見舞いに行かないこともなかったんだが」
このすごく優しい男は黒土。
優しくて良い奴なんだが、専門は妖怪。
その特殊性から大学も学会も煙たがっている。
口数が少なく無駄に背が高い。
いつも真っ黒で辛気臭い顔をしていて黒くて土みたいな男だ。
「なあ、黒土、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ? あんまり面倒ごとじゃないといいんだけど」
「妖怪について聞きたいんだけど」
「この知識を君のために使える日が来るとは思わなかった。なんでも聞いてくれ。答えられることは少ないかもしれないが、出来る限り答える」
「それは、ありがたい」
金が入ったらご馳走してやらなきゃな。
「この気候、長雨についてなんだが」
「あー、えーっと」
思わず苦笑いをする黒土。
「俺はこんな天気にする妖怪は知らない。どんな妖怪もこの広範囲にこんな長い期間雨を降らせることはできないだろう。ただ、」
普段あまり笑わない黒土が満面の笑みを浮かべる。
「それを知ってる人が今日いらっしゃってる」

黒土に通された隣の部屋、ふだん来客の時や生徒の質問なんかの時に使う部屋だ。
その部屋の教授席に背中を向けて堂々と女が座っている。
「彼女は三木谷鞆絵(みきたにともえ)。この研究室の、先代の教授だ」
もったいぶった様子で教授席がこちらを向く。
「いやー、東京はジメジメして嫌なところだねえ」
こちらを向いた女性が思ったより若いことに驚くと、
「彼女は年を取らないんだ。初めて会った時からこんな感じだった」
「君の名前は、大平、信彦、だね?」
「ああ、そうだけど」
黒土から聞いてたのかな。
「シュブ=二グラス」
「は?」
「日本ではたねべさまと呼ばれている神様だね。豊穣神として著名だが、現在では岐阜県の一部でしか信仰されていない」
「この人はこういう人なんだ。黙って聞くことをおすすめする」
「彼は東京には気を病んだ社会人や学生が大勢いることに気づいた。『雨が降って会社が休みにならないかな。』この思いが集まって、東京に雨を降らせている」
「はあ、」
「豊穣神っていうのは人を喜ばせるために人の願いを聞くんだ。雨乞いや日照り乞いの儀式は効率よく神様が願いを聞くためにあるんだね。でも神様だから未来のことはある程度分かる。今ここで雨を降らせれば川下で洪水が起きるだろう。それでも今、雨を降らせるの。自分のことを信じてくれる人たちの喜ぶ顔が見たいから」
「じゃあ、雨が止むにはどうすればいいんだ?」
「『ですか?』」
「え?」
「『ですか?』」
敬語を強要するタイプなのか。
まあ、見た目じゃわからないけど多分結構年取ってるようだしな。
「……どうすればいいんですか?」
「簡単だよ。雨が降ることを信じなければいい。今の東京には一人として雨が止むことを信じている人間なんていないからね。そのうちの、まあ一割くらいかな、それくらいの人が雨が止むことを信じれば、自然と雨は止む」
僕はこの人が何を言いたいのかピンときた。
今日の一日はきっとこのためにあったのだ。
「ちなみに三木谷さん、あなたは今日は何をしに東京までいらしたんですか?」
「いや、ちょっと浅草でどじょう鍋が食べたかったんだよね。浅草って美味しいものがたくさんあるじゃないの。おみやげは雷おこしもいいけどやっぱり亀十のどら焼きがいいよね」
「でもやっぱり雨の日の浅草は嫌ですよね」
「そうだね。まあ、晴れるまでゆっくり滞在するとしよう。じゃあ、黒土くん」
黒土に手を振る。
「私はそろそろホテルに戻るから、タクシー呼んでくれ」
「あ、もういいんですか。分かりました」
黒土が部屋を出るタイミングで僕も出ようとする。
「色々教えてくださってありがとうございました」
「いや、構わないよ。それより、」
僕を指さして、
「その服はなんとかした方がいいよ」

タクシーで三木谷を返したあと黒土に話しかける。
「黒土、聞きたいことがあるんだが」
「なんだ?」
「七島の今研究してる音楽って喋る人と演奏する人は別々でも構わないのか?」
「ああ、儀式やなんかで使うものだから演奏する人は本来別にいるはずだ」
「そうか、ありがとう」

「おい、七島」
「はい、何でしょう」
「今日はテレビのお仕事が入るかもしれないから期待してろよ」
「お、ノブさんついにテレビ進出ですか? 羨ましいなー」
「違うよ。お前の音楽がテレビで流れるんだ」
「ホントですか!? 期待していいんですか!?」
「まあ、電話の結果次第なんだが」

プルルルル
「おい、七島」
「ハーイ、今日の挑戦者は東京都在住の大平信彦くんです。頑張っていきましょうね」
「真面目な話だ」
「はい、すいません」
「今日お前の出演する夕方の報道番組があるだろ」
「ああ、あるけど、それが?」
「その番組で大々的に言ってほしいことがあるんだ」
「なんだい?」
「『明日は晴れの予報です。』って」
「は? 明日は雨だろ?」
僕は七島に事情を説明した。
「なるほど、でも『明日は晴れだ。』って報道するだけじゃ信じてくれる人はごく小数なんじゃないか?」
「そこで、七島、村咲の研究している『言うことを信じてしまう音楽』を使えば、」
「へ? 村咲ちゃん? どうしてそこで村咲ちゃんが? 知り合い?」
「ああ、黒土のところで一緒に働いてたんだ」
「七島一族の汚点を見られているようですごく恥ずかしい」
「大丈夫、あいつはお前よりはマシだ」
「で、その『言うことを信じてしまう音楽』って本当に効果あるの?」
「それはやってみないとわからない。とりあえず村咲をそっちのテレビ局に送るから。頼んだぞ」
電話を切る。
「七島、テレビ出演が決まったぞ。」
「やったー!!!! 苦節二十年、ようやく私の歌声がテレビに……!」
「歌声は流れないぞ?」
「へ?」
「今日は夕方の報道番組で『言うことを信じてしまう音楽』を弾いてもらうんだ」
「え? そんな……、初めてのテレビ出演で私の曲でもない曲を演奏して私の声も流れないなんて……」
「でも救世主になれる」
「え……?」
「この長雨を止めるんだ! いいから今すぐテレビ局に行け!」

午後五時半、僕は家に帰ってテレビを見ていた。
そろそろ七島の番組が始まる。
チャーラッチャチャーラッチャチャー
スーツ姿の七島が映る。
「17時30分を回りました。こんばんは、ジャストタイムニュースの時間です」
いよいよ始まったんだが画面の端にギターを構えた亡霊が見える。
「まずは東京の皆さんに重大ニュースです」
亡霊がギターを弾き始めた。
研究室で弾いていたアコースティックギターではなくエレキギターを弾いている。
かなりこの時点でインパクトが凄いし弾いている曲もポロロンポロロンというよりギュワワンギュワワンみたいな感じだ。
大丈夫なのかこれ。
「四月から降り続いている雨、その雨がまもなく止み、明日は晴れる予報です」
おいおい、いつ止むかなんて僕はひとことも言ってないぞ。大丈夫なのか?
パソコンの短文投稿サイトを眺めてみると
「明日晴れるってよ!!!!!」
とか
「晴れるってマジ? どこソース?」
とか
「画面端に幽霊が映ってるんだけどwwww放送事故だろコレwwwww」
とかまあ、反響は絶大であった。
カメラの方にだんだん幽霊が近づいてくるのをADが制止してる。
テレビを消す。

僕はもう疲れたのでパソコンも消して今日は寝ることにした。

翌朝、電話の音で目が覚める。
「ハーイ、今日の当選者は大平信彦くんです。今のお気持ちはどうですか?」
「要件を言え」
「いや、すごいよ! ほんとに晴れちゃうなんて!」
そういえば日差しが暑い。
ずっと雨が降っていたからカーテンを閉めることなんて忘れていた。
「あんな大胆な報道したのはうちの局だけだからもう反響がすごかったんだよ! 俺も昇給が決まったし、」
「三十万は?」
「え? ああ、その件なんだけど……、うちの局の社長が『今回の報道を指揮した専門家の特集番組を作れ!』ってうるさくてさ。その人に話を通してくれたら三十万を渡すってことでいい?」
「いらない」
「え?」
「それなら、いらないや」
多分あの人もせっかくの浅草観光を邪魔されたくないだろう。
「代わりに七島……村咲の特集番組でもやってやったらどうだ? それじゃ」
「ああ、ちょっと待っ」
電話を切る。

玄関に行って新聞を取ると一緒に葉書が入っていた。
絵葉書だ。
なんだかレーズンに手足を生やしたような謎のキャラクターがプリントされている。
差出人は三木谷鞆絵。

『うまくやってくれてありがとう。
君は東京のヒーローになったってことだ。
そのことは誇っていいと思う。
今回のことは言ってみれば神様が誤作動を起こしたようなもんだ。
これが何を意味するかはわからない。
でも人々の陰鬱とした雰囲気が原因となったことは確かだし、今後もこういう出来事が頻発とは言わずとも起こることはあるだろう。
最終的に何かの拍子で神様がこの世界を終わらせてしまうこともあるかもしれない。
でもそれは君が知るべきことじゃない。
それじゃあ、さようなら、また会う日まで。』

消印は一昨日だ。
つくづく訳の分からない人だ。

窓の外を見ると空は晴れ渡っている。雲ひとつない。
この出来事はこの世界の転機となるのか、はたまたこの世界は終わりの転帰をとるのか。
そんなことは人間にはわからない。
ただ、明日の天気が平穏であることを祈るばかりだ。


あとがき

かなり前の作品です。と思って調べたら二年前でした。そんなに古くなかった。

僕が初めて書いた短編小説じゃないでしょうか。

TRPGのシナリオは何本か書いてるんですけどね。

コレを書くためだけに考えたキャラクターは大平くんだけで、あとの人たちはTRPGでNPCだったりPCだったりで使ったキャラクターです。何に使ったか知りたかったら聞いて下さい。

黒土教授だけは僕が考えたキャラクターじゃありません。

作った人からは「なんなら殺してくれてもいい」と言われております。

妖怪専門の教授なんて使いやすすぎです。

前の話なので書くことがあんまり思いつかないですね。

この作品は連作短編の1本目でした。

続編は「Forget Me Not[現実]」です。

お楽しみに。